形見分けを行う時期・方法・注意点について

葬儀を終えた後も、初七日、四十九日と法要が続きますが、その他にも遺産や遺品の整理が必要となってきます。
故人を偲ぶ気持ちを込めて行う形見分けは、遺品整理のひとつです。

「親しくしてくださっていた方々が来てくれるから失礼のないようにしなくては」
と考えるのは当然のことですが、形見分けも、やり方によっては受け取る側の負担になってしまうことがあります。
故人や弔問客の気持ちに沿った形見分けをしたいものですね。

今回はそんな、形見分けについて紹介します。

形見分けとは?

形見分けとは、亡くなった方の愛用品や大切にしていた品を、近親者や故人と親交の深かった友人に譲ることです。
古来から日本で行われてきた風習で、故人の思い出を一緒に大切にしていきましょう、という気持ちを込めて行います。形見分けをした品を引き継いで使うことで、故人を偲ぶことになり、ひいては供養につながるのです。
最近では、必ず意中の人に品が渡せるよう、生前に形見分けを行う方もいます。その場合は、すべての相続人に認知してもらえるよう、遺言書を残しておくといいでしょう。

形見分けと遺品整理の違い

故人が所持していたものを片づけ、整理することを遺品整理といいます。形見分けは、遺品整理の一環として行います。
遺品を片付ける、といっても、すべての品を廃棄しなければならないというわけではありません。遺品の中でも、故人が日常的に使っていた品や、大切にしていた物は捨てにくいものです。しかし、サイズが違うために着ることのできない服や、手元に残しても使うことのできない趣味の品などは、残しても部屋を圧迫することになってしまい、遺族の負担になりがちです。
そうした日用品や愛用品は、形見分けを行います。それが、故人の思い出を大切にし、遺品整理を円滑に進めることにもなるのです。

形見分けの方法

形見分けは、まず遺品を、処分する不用品、通帳や貴金属などの貴重品、そして残したい品に仕分けをします。
次に、残したい品から、誰に何を形見分けするか、選んでいきます。
形見分けをする品は、着物などの衣類、指輪や時計などのアクセサリー、蔵書、骨董品、趣味の品、収集品などが多い傾向にあります。傷みが激しいものや、あまりに安価なものは控えるようにしましょう。
衣類はクリーニングや手入れなどをして、失礼のないようにします。
よく形見分けをされる品のひとつに着物がありますが、着物はそれぞれの寸法が異なるうえ、保存にも手がかかるため、受け取る側の負担になりやすいものです。そのような場合は、リフォームやリメイクをして、寸法を調整する、洋服にしてしまう、使いやすいアイテムに変える、など行っておくといいでしょう。
着ることができる衣類や収集した蔵書があまりにも多い場合、形見分けではなく施設に寄付をするのも、ひとつの手です。

形見分けはいつ頃に行うの?(時期)

実際に形見分けを行うにも、いつ頃に行えば良いのでしょうか。ここでは形見分けを行う時期について、仏式・神式・キリスト教式それぞれのケースに分けて紹介します。

仏式

仏式で葬儀をした場合、形見分けは四十九日法要を終えてから行います。これは、死後四十九日は冥福を祈る期間の喪中であるためです。四十九日法要を終えれば、故人が仏様のもとへ旅立つ忌明けとなるため、お見送りとして形見分けをし、故人の供養をすることにつながります。

神式

神式の場合、仏式でいう法要のことを霊祭(れいさい)といいますが、葬儀が終わってから10日ごとに霊祭が行われ、五十日祭を終えて忌明けとなります。そのため、形見分けは五十日祭を終えた後に行います。五十日祭は仏式の四十九日法要にあたり、これを境に故人は家の守護神様となります。

キリスト教式

キリスト教に形見分けの風習はありませんが、形見分けを行う方はいます。カトリックの場合は死後1ヶ月目の追悼ミサの時に、プロテスタントの場合は死後1ヶ月目の昇天記念日の時に、手渡しで贈るケースが多くなっています。

形見分けを行う前の注意点

形見分けを行う前には確認すべきことがいくつもあります。ここでは形見分けを行う前の注意点を紹介します。

遺品が贈与税/相続税の対象にならないか確認しておく

遺品の価値が110万円を超える場合、贈与税や相続の対象となります。市場価値があるかどうか、必ず確かめるようにしましょう。
負債があるため相続放棄をする予定だったのに、形見分けをした時計が高額であったため、放棄ができなくなってしまった、なんてケースもあります。
また、
「『衣服なら大丈夫!』と思い形見分けを行ったところ、新品の服や毛皮を含む高価な洋服も持ち帰ったために、形見分けの遺品の価値が高額になり、相続に認定されてしまった」
という裁判例もあります。

「知らなかった!」
と言い訳をしても、後の祭り。法律は待ってはくれません!
時計や着物、絵画や骨董品など、遺品にどの程度の価値があるのか、形見分けをする前にしっかり把握しておくようにしましょう。

トラブルにならないよう遺産分割を完了しておく

故人の財産や負債を、誰がどの程度もらうのか相続人の間で決めることを遺産分割といいます。形見分けを遺産分割の前に行ってしまうと、実は金銭的価値がある品であることが分かり分配に不満がおきた、生前に譲り受ける約束をしていた品を勝手に持ち出された、など、トラブルに発展するケースがあります。
形見分けを行う前に、遺言書があるかどうか、相続人は誰なのか、相続人の誰が何を相続するのか、など、よく確認をして、遺産分割を済ませておくようにしましょう。

目上の人には贈らない

故人より目上の方に形見分けをするのは失礼にあたるとされています。形見分けは、目上の方には行わないのがマナーです。しかし、目上の方からどうしても、と希望をされた場合は、行ってもよいでしょう。

遺品を梱包しない

形見分けの品はプレゼントではありませんし、お祝いで贈るものではありません。そのため、着物など、元々箱に入っているもの以外は、包装せずに贈るようにしましょう。
直接手渡しするのが好ましいですが、遠方で手渡しできない場合は郵送でも構いません。このとき、過剰な梱包は避け、故人の思い出や形見分けをした品のエピソードなどを書いた手紙を添えるといいでしょう。
どうしても気になる場合は、半紙などの白い紙で軽く包み、「遺品」や「偲び草」などの表書きをして贈ります。
また、形見分けを受けた側は、礼状も返礼品も返す必要はありません。しかし、どうしても何かお返しをしたい場合は、故人のためにお供えをするといいでしょう。

高価なものを贈るのは避ける

形見分けは、高価すぎる品を贈らないようにしましょう。贈与税が課せられてしまいますし、かえって先方の負担となってしまう恐れがあります。特に、故人がコレクションしていた品や将棋、囲碁、釣り竿などの趣味の品は、価値が分かりにくいものです。贈る前にきちんと確かめるようにしましょう。

形見分けを行う時の気になる疑問

色々と気をつけなければならないことがある形見分け。疑問に思うことも出てくると思います。
ここでは、形見分けを行う時によくある気になる疑問について紹介します。

形見分けで遺品の代わりに現金を渡すのは良いの?

「使い古した物をあげるのは気が引けるから…」といって、現金や新品の贈答品を用意しようと考える方がいます。しかし、現金や新品の贈答品を贈る行為は、形見分けとはいえません。
故人の遺品を贈らなければ、形見分けとはいえないのです。

形見分けを処分する時の方法はあるの?

形見分けの品を処分するときの決まりは、特にありません。
形見分けで衣服をいただいたけれど、着る機会がないため置き場所に困ってしまった、趣味の品をいただいたが、趣味を続けられなくなってしまった、など、形見分けの品を仕方なく処分しなければならない状況になってしまうこともあるでしょう。
その場合、市町村や自治体の規定に沿って分別して処分すればすむことですが、どうしても気になる場合は、お清めの塩を添えたり、写真に残したりするといいでしょう。
処分をすることに引け目を感じる必要はありません。故人か遺族か、いずれは誰かが処分しなければならなかった品です。自分の物が負担になってしまうことは、故人も不本意ではないはずです。

まとめ

ごく当たり前に行われている形見分けですが、マナーを守らないとトラブルに発展してしまいます。故人と形見分けを受け取る方、双方の気持ちを大切にしなければなりません。
この品は形見分けにふさわしいのか、受け取る方の負担にならないのか、故人とはどんな関係だったのか、など、形見分けを行う前にきちんと考えるようにしましょう。
形見分けは、ただ遺品を分配するだけの行為ではありません。それを行う事で、故人の供養につながり、ひいては遺族が心の整理をするきっかけになるかもしれません。そんな、日本の良き風習のひとつなのです。