終活という言葉が生まれ、自分らしい最期を迎えるにあたり、お墓の多様化が進んでいます。
樹木葬は新しいお墓のスタイルですが、自然を大切にして生活を営んできた日本人の気質に合っているのか、希望者は増え続けています。
ニーズに応えるため、一般のお墓と並存して樹木葬のエリアを設けている霊園も珍しくありません。
今回はそんな、樹木葬について、基礎知識として押さえておきたい点を紹介します。
樹木葬とは?
樹木葬とは、墓石を建てずに、樹木や草花を墓標とするお墓のことです。
墓標となる樹木は様々ですが、主にサクラやモミジ、ケヤキやクスノキ、ハナミズキ、サルスベリ、カツラなど、街路樹や公園に植えられているものがシンボルツリーとなっています。また、草木で囲むガーデニング型の樹木葬では、バラやアジサイなどの花が好まれています。中には、生前に好きな草木を植樹できる墓地もあります。
ご遺骨は土に還るように埋葬します。埋葬の方法は墓地によっても違いますが、宗教・宗派は問わない事がほとんどです。
また、基本的には墓石も必要としないため(暮石と樹木を用意している墓地もあり)、一般のお墓よりも費用は安くなるケースが多いです。
樹木葬と一般的なお墓との違い
樹木葬はご遺骨を土に埋葬するため、納骨は墓地の定めた方法で行います。土の中で分解する骨壺に入れ埋葬するところもあれば、さらしなどに包んで直接土の中へ埋葬するところ、ご遺骨をパウダー状に粉骨し埋葬するところなど様々です。
また、ご遺骨は土に還るため、後から取り出すことはできません。改葬は難しいと考えましょう。
基本的に、樹木葬は継承者を必要としない永代供養のお墓になります。墓地・霊園の運営者が合同祭祀を行っています。
整備や管理も運営者側が行うため、シンボルとなる草木を自由に手入れすることはできません。もちろん、墓標となる樹木が枯れることもあります。
墓石がないため、お墓参りの際には、故人がどこに埋葬されているのか分かりにくくなってしまいます。
宗旨・宗派は問わず、戒名も必要としない場合もあるため、俗名(生前のお名前)で葬儀を行う方もいます。
樹木葬と散骨の違い
自然に還るという共通点から、樹木葬と散骨は混同されがちです。しかし、ご遺骨を「撒く」散骨に対して、樹木葬は「埋める」ことが前提となります。
また、樹木葬はお墓であるため、ご遺骨を墓地以外に埋めてはいけないと規定する「墓地埋葬法」(通称「墓埋法」)の規定を満たしている墓地でしか行うことができません。
加えて、散骨は広い範囲に撒いてしまうため墓標となるものがありませんが、樹木葬にはシンボルツリーや草花、プレートなどの墓標があります。
樹木葬の種類
続いて、樹木葬の種類について紹介します。
樹木葬には大きく分けて、里山型、都市型・公園型、ガーデニング型の3つの種類に分かれます。下記に1つずつ紹介します。
里山型の樹木葬
里山型の樹木葬は、整備された墓地ではなく、元々そこにある山や森林に許可を得て埋葬する樹木葬です。ご遺骨を砕いて撒いたり、好みの木の下に植えたりと、納骨の方法は様々です。
目印となる墓標やプレートを設置することもありますが、元々の自然を生かしていくため、どこに埋葬したのか分からなくなってしまうことも珍しくありません。
広大な土地であるため、お墓参りをし辛いという難点はありますが、最も自然に近い形の埋葬方法といえるでしょう。
都市型・公園型の樹木葬
一般的な墓地や霊園に樹木葬の区画を設けたのが、都市型・公園型の樹木葬です。法事法要の施設を備え、故人の名を刻んだ銘板や、お線香をあげるスペースなどがあり、お墓参りがしやすくなっています。
スペースに限りがあるため、1本のシンボルツリーの元に個別区画がある集合型タイプや、シンボルツリーの周辺に共同で埋葬する合祀型タイプが多くなっています。
なお、シンボルツリーが桜の木である「桜葬」は、この都市型・公園型の樹木葬ですが、「桜葬」という名称をNPO法人エンディングセンターが登録商標をしているため、その他の墓地・霊園が桜の木を樹木葬のシンボルツリーとしても、「桜葬」という名称は使われません。それでも、桜の木をシンボルツリーとする墓地・霊園は多く、人気を博しています。
ガーデニング型の樹木葬
ガーデニング型の樹木葬は、都市型・公園型の樹木葬に似ていますが、樹木は植えず、芝生を敷き詰め周辺にバラなどの草花を植えた樹木葬です。庭師が墓標となる草花の手入れをします。そのため、都市型・公園型の樹木葬よりも費用が高くなります。
都市型・公園型と同じく、こちらも、多くは1エリアに個別区画がある集合型のタイプか、合祀型タイプです。
近年、女性に人気があり開設する墓地・霊園が増えていますが、ガーデニング型の墓地と混同されがちなため、注意が必要です。ガーデニング型の墓地は墓石を必要とし、一般的なお墓と変わりません。ガーデニング型の樹木葬であることを、きちんと確認するようにしましょう。
樹木葬にかかる費用と内訳
一般的なお墓は、永代使用料、墓石工事代と彫刻料、外柵やカロート(納骨棺)の設置費用、年間管理費などの費用がかかります。しかし、樹木葬には墓石がないため、墓石にかかる費用はありません。また、基本的に永代供養であるため、年間管理費は安くなります。かかる費用は、一般的なお墓の3分の1から、10分の1ほどの価格になるでしょう。
それでも、1家族につき1本のシンボルツリーを植えるタイプの樹木葬や、夫婦や家族、ペットと一緒に入る樹木葬の場合、名前を刻んだ銘板を設置するなどのオプションをつけると、その分費用も高くなります。東京都で、個別に埋葬するタイプの樹木葬の費用相場は、50万円~200万円ほどになります。
対して、合祀するタイプはとても安くなり、東京都の費用の相場は、5万円~20万円ほどとなっています。
ちなみに、日本で初めて樹木葬を始めた知勝院の里山型の費用は、50万円(+年間8千円の管理料)です。
樹木葬の募集倍率
樹木葬の希望者は増加傾向にあり、都市圏での競争率はとても高くなっています。特に公営霊園は、民営の霊園や寺院墓地よりも安価で人気があるため、応募倍率が高くなっています。
2006年に日本で初めての公営樹木葬墓地、神奈川県横浜市の市営墓地メモリアルグリーンが開設し、7年が経っても、募集倍率は10倍を超えていました(2013年に募集は終了しています)。
次に、2012年に東京都の公営霊園で初めての樹木葬である都立小平霊園が開設したところ、応募倍率が約16.3倍という高倍率となり、ニュースになりました。このニュースを受け、東京都では翌年の定員を3倍以上に増やしています。
2017年、小平霊園の樹木型合葬埋蔵施設(生前予約ができない合祀型の樹木葬)の倍率は1.7倍、樹林型合葬埋蔵施設(生前予約もできる合祀型の樹木葬)で9.4倍となっています。
最近では、永代供養の一つとしての樹木葬のニーズも高まってきており、2018年以降、益々、樹木葬の募集倍率は高まっていくものと推察されます。
樹木葬の募集時期
樹木葬は植える樹木や草花によって募集時期が変わるため、注意が必要です。埋葬の時期と植樹の時期が合わないときは、納骨と植樹を別々に行う場合もあります。
様々な種類の樹木・草花が植えられている墓地や霊園が多いため、墓標に希望する植物があるのなら、生前予約をするといいでしょう。
公立霊園の募集は、年1回です。各都道府県や市区町村などのホームページでも募集期間を確認することができます。
参考までに、2018年(平成30年度)の、東京都の都立霊園での募集から使用許可交付までの流れを下記に紹介します。
1.申込期間内に申し込む
・7月2日から7月17日までに、郵送かインターネット申し込みをする。1人1カ所に限る。
2.都庁にて公開抽選
・8月28日に抽選。抽選結果(当選・補欠・落選)は、順次通知がされる。
3.書類審査
・当選者は、指定された日に書類審査が行われる。10月頃。
4.納入通知書が発送
・11月上旬。納入通知書を受け取ったら、使用料と管理料を支払う。期限までに納入がない場合、当選辞退となる。
5.12月中旬頃、使用許可書が交付
まとめ
如何でしたでしょうか。
樹木葬はお墓ですが、自然あふれる場所に埋葬されるため、訪れると公園や森林浴に来たかのように錯覚します。それ自体はとても素晴らしいメリットでもありますが、反面、荒れ易いというデメリットもあります。ただ、最近では、霊園自体が管理してくれるタイプの樹木葬のお墓など、様々な種類の樹木葬もあります。
樹木葬を行うメリット・デメリット、どんな種類の樹木葬を選ぶのか等、本記事に書かれている事も基礎知識として踏まえながら、家族ときちんと話し合った上で決めるようにしましょう。