施餓鬼とは?お盆との違い・服装・お布施・お供え物など徹底解説!

皆さんは、施餓鬼という言葉を聞いたことはありますか?
毎年7月や8月頃、檀家や新盆を迎えた家には、お寺から施餓鬼会のお知らせが届きます。

お盆の法要に参加したことのある人は多いかもしれませんが、施餓鬼会に参加したことのある人は、あまり多くは無いと思います。
しかし、施餓鬼の法要はお盆と同様に、亡くなった方をご供養する、大切な仏教行事のひとつなのです。今回はそんな、施餓鬼について、詳しく紹介します。

施餓鬼とは?

餓鬼に施すと書いてせがきと読みます。施餓鬼とは、地獄の餓鬼道に堕ちて苦しみ続けている無縁仏を供養し、自らの功徳を積むための法要です。すべての無縁仏を供養する法要、と考えれば簡単かもしれません。
餓鬼たちを供養することで「自身やご先祖様の極楽浄土への供養につながる」と考えられており、「欲を捨て、施しを行うことが施餓鬼の心である」とされています。

施餓鬼はお寺では欠かすことのできない仏教行事のひとつで、法要には近隣の寺院から僧侶たちが集まり、盛大に行われます。10人や50人、檀家さんも含めて200人以上が集まることもあります。また、1年に何度か施餓鬼会を行うお寺も珍しくありません。
施餓鬼会では、施餓鬼棚という祭壇にお供えをして、お経をあげます。その後、何を行うかはお寺によって異なりますが、食事会や法話などが行われます。
また、川の水難で亡くなった方を供養する川施餓鬼(かわせがき)を行う地域や、海で亡くなった方を供養する海施餓鬼(うみせがき)を行う地域もあります。川や海の施餓鬼会では、灯篭流しや経木流しを行い、地域の行事となっていることもあり、東日本大震災で亡くなった方たちに対しても、海施餓鬼が行われています。
川施餓鬼や海施餓鬼に対して、お寺で行われる施餓鬼を寺施餓鬼と呼ぶ方もいます。

施餓鬼とお盆の違い

施餓鬼はお盆の法要と同一視されがちですが、全く別の行事です。
年に一度といわず、毎日行っても構わない施餓鬼会に対して、お盆は8月13日から16日までの4日間、正式には太陰暦(旧暦)の7月15日に行うものとされています。
どちらも由来はお経、つまり仏教伝説からきており、どちらも餓鬼が登場します。そして、どちらも亡くなった方を供養する法要であるため、同じものだと誤解が生まれたのかもしれません。

下記に、お盆と施餓鬼、それぞれの由来をご紹介します。

施餓鬼の由来「焔口餓鬼陀羅尼経」(ぐばつえんくがきだらにきょう)

お釈迦様の弟子、阿難(あなん)尊者が一人で静かな場所に座り、学修している時のことでした。

夜も更けた丑三刻、焔口(えんく)という餓鬼が現れました。
その姿は枯れ細り、口から火を吹き、髪は乱れ、喉は針の先のように細い、それはそれは醜い恐ろしい形相でした。

餓鬼は阿難尊者に「お前の寿命はあと三日で尽き、私のような餓鬼の姿に生まれ変わるだろう」と言いました。

驚いた阿難尊者は、お釈迦様に相談をしました。
「お経を唱えながら餓鬼に食物を布施しなさい。そうすれば、わずかな一食でも、多くの餓鬼に施され、あなたの寿命も延び、悟りを得ることができるでしょう。」
阿難尊者がその通りに法要を行ったところ、長生きすることができたのです。

盂蘭盆(うらぼんえ、いわゆるお盆)の由来「盂蘭盆経」(うらぼんきょう)

お釈迦様の弟子で神通が第一といわれている目連(もくれん)尊者は、亡くなった母のことを気にかけ、神通力でその姿を探しました。
すると、目連尊者は母が餓鬼道に堕ち、飢えた姿で逆さ吊りになり、苦しんでいることを知りました。
目連尊者は神通力で食べ物や飲み物を施そうとしましたが、神通力で出したものはたちまち燃えてしまい、母は口にすることができません。

そこで目連尊者は、お釈迦様に母を救う方法を尋ねました。
「お前の母親はお前を可愛がるあまり、他の子供達の事を考えもせずお前の幸せだけを願っていた。その自分勝手な心が餓鬼であり、それによって餓鬼界に堕ちてしまったのだ。」
そしてお釈迦様は目連尊者にこう指示します。
「7月15日に、雨安居(雨期百日間の修行)を終えて精舎から出てくる修行僧にご馳走を用意し、お経を唱え、すべての霊を心から供養しなさい。」
目連尊者がお釈迦様の言った通りに供養をすると、母は餓鬼の苦しみから救われたのでした。

このように、無縁仏を含むすべての霊を供養するのが施餓鬼で、縁のあるご先祖様を供養するのがお盆、と考えれば簡単かもしれませんが、どちらも布施の心を大切にする教えとなっています。
施餓鬼もお盆も、亡くなった方を供養する、大切な行事なのです。

宗教/宗派ごとの施餓鬼の違い

真言宗

宗派によって葬式の作法が変わるように、施餓鬼も宗派やお寺によって、作法が少しずつ異なります。
真言宗では、施餓鬼と護摩祈祷が重要視されています。それは、毎日施餓鬼をし、護摩を焚けば寺門繁栄や福徳増長につながる、という教えがあるからです。
真言宗の施餓鬼会は夕方に行われることが多く、他の宗派よりも施餓鬼会が行われる回数は多い傾向にあります。
内容はお寺によって様々ですが、他の宗派とあまり違いはありません。

曹洞宗

曹洞宗では30年ほど前に名称が改められ、施餓鬼のことを「施食」(せじき)といいます。先祖が餓鬼になってしまったと誤解をさせるから、または、曹洞宗では施すものと施されるものの間に尊卑貴賤の差があってはならないという考えがあるから、というのが名称を改めた理由だといわれていますが、はっきりとは分かっていません。
曹洞宗でも施餓鬼は大切な法要とされており、「生飯(さば)」という施食作法があります。これは食事のときに七粒ほどの米粒を供養するもので、禅宗の作法のひとつです。禅宗における施餓鬼とは、単なる法要ではなく、修行の一つと考えられています。
施食会にて読まれるお経は「甘露門」となっています。

浄土宗

浄土宗でも他の宗派と同じように、施餓鬼は大規模な法要として行われます。
しかし、浄土宗を元にして始まった浄土真宗では、施餓鬼の法要は行いません。それは、すべての人は成仏しており、死後、餓鬼道に行くことはない、という教えになっているからです。餓鬼道は死後にあるのではなく、人の心の中にある、という考えで、餓鬼のような苦しみは現世にあるとされています。

日蓮宗

日蓮宗でもやはり施餓鬼の法要は盛大に行われます。
謡曲の「鵜飼(うかい)」では、開祖である日蓮聖人が、山梨県笛吹市の石和町に立ち寄った際、「鵜飼の亡霊がでる」と聞き、法華経28品およそ6万9384文字を、ひと文字ずつ小石に書いて川に投げ入れる川施餓鬼供養を行ったとされています。その際に創建されたのが鵜飼山遠妙寺とされ、一字一石の経石として、現在も祀られており、能や狂言では今もその様子が演目の一つとして披露されています。

臨済宗

臨済宗は曹洞宗と同様に、禅宗のひとつであり、やはり施餓鬼は大切な法要なっています。施餓鬼会では焼香をせずに、水向けが行われることがあります。水向けとは、霊前に水をお供えすることで、施餓鬼のときには洗米と水をお供えします。
また、禅宗であるため、施食作法として、やはり僧侶は生飯(さば)を行っており、食事の際には七粒ほどの米粒を供養しています。

施餓鬼会を行う時期

施餓鬼会を行う時期は決まっていないため、いつ行ってもおかしくはありません。しかし、祖先と一緒に餓鬼たちを供養するという形で、お盆の時期である7月や8月によく開かれています。また、お彼岸に施餓鬼会を行っているお寺もあり、その場合、春と秋の年に2回、施餓鬼会を行っています。

施餓鬼法要のお布施の金額相場

施餓鬼会のお布施の金額はお寺や地域などによって様々ですが、相場としては、3千円~1万円となっています。お寺から金額の指定をされる場合もあるため、よく確認をするようにしましょう。
卒塔婆をお願いする場合は、卒塔婆料を別途で用意します。卒塔婆料の相場はやはり3千円~1万円です。
のし袋を使う場合には、通常無地ののし袋を使いますが、お寺によっては、専用の封筒などが用意されていることもあります。
表書きは御布施か施餓鬼料、または御施餓鬼料、施食料のいずれかを書きますが、お寺によって使われている書き方を優先するようにしましょう。
また、施餓鬼法要の当日には、お寺が受付を設けているケースが多くなっています。受付があった場合、お布施はのし袋を使わず、そのまま係りの人に手渡しても構いません。

施餓鬼法要のお供え物

施餓鬼法要では、施餓鬼棚に洗米と洒水(しゃすい)をお供えします。洒水はお清めの水のことです。洒水を浴びた餓鬼はその身の欲望の炎が消え、洗米やお供え物を口にすることができるといわれています。
施餓鬼でお供えするお米は、お施餓鬼米・御供米もしくは餓鬼飯(がきめし)と呼ばれることがあります。
施餓鬼法要に参列する際に、お布施と共にお供え物を用意する場合、お供えの品の表書きは「御供」にするようにしましょう。
また、お盆のときにはご家庭で精霊棚をつくりますが、それと共に、施餓鬼棚もしくは水棚と呼ばれる祭壇を、盆棚とは別に庭先や縁側に作り、施餓鬼のお膳を用意する地域もあります。その場合、野菜や果物、お菓子などのお供えをします。

施餓鬼の際の服装

施餓鬼会は年中行事のため、喪服を着ていく必要はありません。普段着や平服で参加しても大丈夫でしょう。そのときは黒やグレーを中心としたコーディネイトにし、失礼のない程度に弁えるようにしましょう。夏に行われることが多いため、黒いストッキングなどは履かなくても大丈夫ですが、サンダルは控えるようにします。子供の服は、黒かグレーの目立たないものや、制服で構いません。また、法要のため数珠を忘れずに持っていくようにしましょう。
自宅に僧侶を招いて施餓鬼会を行う場合、施主は喪服(略礼服)を着るようにします。このときも、数珠は忘れずに持参するようにしましょう。
施餓鬼会は、地域や宗派によって作法が異なります。気になることがあったときは、お寺や檀家総代に事前に問い合わせるといいでしょう。

よくあるご質問

施餓鬼や施餓鬼会はあまり馴染みがある行事では無いため、解らないことも多いと思います。こちらでは、施餓鬼に関する「よくある質問」について紹介します。

施餓鬼会は必ず出席しなければいけないの?

施餓鬼会への参加は義務ではありません。遠方のためや、都合がつかないなど、やむを得ず欠席することもあるでしょう。基本的に通知は必要ありませんが、お寺から施餓鬼会の案内状が届いたときや、檀家である場合には、欠席の旨を早めに伝えるようにしましょう。

施餓鬼会に欠席する場合もお布施は必要なの?

施餓鬼会に欠席する場合、基本的にお布施は必要ありません。しかし、お寺からの案内状に、欠席する場合のお布施について記載がされているときは、その指示に従うようにしましょう。欠席の際のお布施の額は、お寺によってまちまちです。記載がないときは、お寺や檀家総代に尋ねるようにしましょう。
また、施餓鬼会に欠席する場合でも、卒塔婆をお願いする場合には、お布施と卒塔婆料が必要になります。別の日や、郵送などでお寺にお渡しするようにしましょう。

施餓鬼会の当日は何をするの?

当日は読経したあとに、卒塔婆の回向供養が行われます。そのあとは檀家同士でコミュニケーションをとったり、お食事会があったり、僧侶からの法話があったりと、お寺によってさまざまです。
施餓鬼会の様子を事前に知りたい場合は、お寺のホームページや案内などに、当日のスケジュールや写真が紹介されていることがあるため、調べておくといいでしょう。

施餓鬼会で配っていた小さな旗や卒塔婆はどうしたらいいの?

木の棒に5色の色紙がついた旗は、施餓鬼旗(せがきばた)といいます。お寺によっては、小さな施餓鬼旗が参列者に配られることがあります。いただいた施餓鬼旗は、お墓参りの際に立てたり、仏壇や精霊棚に飾り付けます。
5色は五如来を表したもので、五如来の御力で身心が清められ、餓鬼道への恐怖が除かれるといわれています。施餓鬼旗は、お盆が終わった後に送り火でお焚き上げをします。
卒塔婆はお墓に立てましょう。日が経って古くなったものはお焚き上げをして供養をします。

まとめ

このように、施餓鬼は聞き慣れない言葉かもしれませんが、特殊なことをするわけではありません。亡くなった方にお供えをして供養する一般的な法事と、行うことも心持ちも同じです。
餓鬼たちにお供えをすることで、水やお米の有難さを感じ、自分を見つめ直す機会になる、と僧侶の方々は説いています。餓鬼は己の心にある物欲であり、施しをすることで、大きな安らぎを得ることとなるのです。
施餓鬼会に参加する機会があったときは、お盆のお墓参りと同じように、亡くなった方と自分自身のことを思って、手を合わせるといいかもしれませんね。